成人先天性心疾患に対するカテーテル治療は,新しいデバイスの登場や器具の改良によって適応となる対象疾患を拡大してきている306),320),
430).2005年からはAmplatzer Septal Occluderを用いた心房中隔欠損のカテーテル治療が可能となり,国内での治療経験も増加し,今後の治療戦略
に大きな影響を与えると思われる.
成人領域でのカテーテル治療に用いられるデバイスは小児期の先天性心疾患に適応されるものと基本的に同一である.すなわちコイルを用いた動脈
管閉塞術や血管閉塞術,バルーンによる弁形成術や血管形成術,ステントを併用した血管形成術が主体である306),320),430).しかしながら成人先天性
心疾患では,先天性心疾患そのものに加え,動脈硬化性病変の合併(虚血性心疾患,高血圧等)や先天性心疾患そのものの加齢に伴う変化(呼吸機
能,腎機能)を考慮に入れて,治療方針を決定する必要がある.このため成人期の先天性心疾患のカテーテル治療にかかわる場合は,先天性心疾患
に対する知識や経験のみならず,成人領域にわたる全般的な知識や経験も身につける必要がある431)−434).
①心房中隔欠損
心房中隔欠損に対するカテーテル治療は,これまで様々な試みがなされてきたが,認可に至ったものはなかった435).
1990年代後半に登場したAmplatzer Septal Occluder®はニッケル・チタン合金からできた形状記憶合金(Nitinol®)のメッシュで構成された円形の閉
鎖栓であり,金属メッシュ内部には血栓形成性を高めるポリエステル製の布製パッチが縫着されている436).閉鎖栓の末端は,ねじ状の接続部でデリバ
リーケーブルとつながっているため,閉鎖術中に閉鎖栓の位置を変更したり,カテーテル内に回収したりすることが可能である.世界中で数万例を超す
安定した留置実績があり,我が国でも2006年春より保険診療が可能となった437). 本治療は日本Pediatric Intervention Cardiology学会,もしくは日本
心血管インターベンション治療学会の認定基準を満たした施設でのみ実施可能である.
Amplatzer Septal Occluderを用いた心房中隔欠損のインターベンション治療対象は,二次孔型心房中隔欠損で,(1)欠損孔のバルーン伸展径が
38mm以下,(2)肺体血流比が1.5以上,(3)前縁を除く欠損孔周囲縁が5mm以上あるもの,または(4)肺体血流比が1.5未満であっても心房中隔欠損
に伴う心房性不整脈や奇異性塞栓症を合併するもの,である.高度の肺高血圧を合併する例等心房中隔欠損の治療そのものが適応にならない場合
は,インターベンション治療も適応とはならない.欠損孔の正確な部位診断と欠損孔周囲縁の評価には経食道エコーが有用である.
閉鎖術は,原則として全身麻酔下に施行する.閉鎖にはこの伸展径と同一サイズ,もしくは1サイズ大きい閉鎖術を施行する.経食道エコーによるモニ
ターが重要なポイントとなる.閉鎖術後は抗血栓を目的にアスピリンを6 か月間服用する.2010年からは,多発性欠損例に対するAmplatzer Cribriform
Deviceも使用可能となった.
海外では既に100,000例を超える留置実績があり,我が国での治療経験も2,000例を超え心房中隔欠損に対する治療法としての地位を確立してい
る.米国における外科治療との比較検討によるとカテーテル治療による重大な合併症(処置が必要な合併症)として,不整脈(心房細動や房室ブロッ
ク),デバイスの脱落,脳血管塞栓症が報告されている.これら合併症の発生率は外科手術の合併症発生率と比較し有意に低いものであったと報告さ
れている437)−441).遠隔期合併症としては心臓壁のびらん(erosion)に伴う心タンポナーデ合併が報告されている.多くの場合前縁欠損(心房中隔欠損
孔と大動脈壁との間の壁が短い欠損)で,欠損孔に比べ大きいサイズのデバイス(> 150%以上)が留置されている442).
本法はこれまでのカテーテル治療と比べ,安全で高い完全閉鎖率が期待できる.閉鎖栓の安全性や血栓症等の長期予後に関しては,今後の検討が
必要である.二次孔型心房中隔欠損の多くで手術によらない治療が可能になると思われる.成人期,特に高齢者ではカテーテル閉鎖の経験も増加して
いる443),444).高齢者では欠損孔の閉鎖に伴う左室容量負荷が急性肺水腫を起こす可能性があることが危惧されており,肺動脈圧楔入圧のモニターを
含めた慎重な術後ICU管理が必要である.高齢者では慢性心房細動を合併している患者も多いが,このような症例に対する有効性も報告されている
445).
海外では奇異性脳梗塞再発予防目的とした卵円孔閉鎖も行われているが,現在国内で卵円孔閉鎖を目的として閉鎖栓は認可されておらず,保険適
応もない.
②動脈管開存
コイルを用いたカテーテル治療が一般的に行われてきた.現在国内で動脈管のカテーテル閉鎖術に用いられるコイルの大半はCook社製の
detachable coilであり446),447)コイルの材質はMRI 検査に対応している.閉鎖術の適応は,動脈管の最小部径が3.0mm未満の小さな動脈管とされて
いる.これは,3.0mm以上の動脈管では残存短絡の発生頻度が有意に高くなること,さらにコイルの脱落頻度が高率になるためである.このような中等
度以上の動脈管開存に対しては,複数個のコイルを留置することにより,完全閉鎖率の向上とコイル脱落等の合併症の軽減が可能である448).また,
動脈管の形態によってコイル閉鎖術に適しているものとそうでないものとがある.最も頻度の高いmegaphone typeは,コイル閉鎖術に適した形態であ
る.これに対し,大動脈側と肺動脈側との距離が短いwindow typeやtubular typeは,コイルによる閉鎖が難しい場合が多く,留置が可能であっても残
存短絡を残す確率が高い.成人の動脈管開存は加齢に伴う大動脈側の変化によりwindow typeの動脈管が多くなる.さらに動脈管に石灰化を来たしコ
イルと大動脈壁の密着性が悪く,術後の残存短絡の発生率が高くなる.コイル脱落(多くの場合肺動脈末梢)や溶血が小児期と比べ高く,特に直径
3.0mm以上の動脈管での頻度が高い.
2009年から,我が国でもAmplatzer Duct Occluderが使用可能となり,成人期の大きな動脈管も安全に閉鎖できるようになった449)−452).通常直径
2.0mm以上の動脈管が治療対象であり,直径10mm程度までの動脈管は閉鎖可能である.コイルによる閉鎖術と比較し,より安全に確実な閉鎖が可
能であり,特に成人期の動脈管開存症には有用である.心房中隔欠損のデバイスと同様の施設基準と術者基準が必要である.
③肺動脈弁狭窄症
肺動脈弁狭窄は,バルーン弁拡大術が治療の第一選択と考えられている.成人期の肺動脈弁狭窄は,弁組織の石灰化が高頻度に認められること,
主肺動脈の拡大や右室の拡大等も同時に見られるため,カテーテル治療中にバルーンを肺動脈弁に固定することが困難な場合がある.また肺動脈弁
輪径が大きいため,通常複数個のバルーンを同時に用いて拡大する必要がある.イノウエバルーンの有効性も報告されている.バルーン拡大術後は,
急速な右室圧減圧のため,右室流出路狭窄が出現することがあり,必要に応じてβ遮断薬を投与する.術後の残存狭窄,肺動脈弁閉鎖不全,心室性
不整脈に注意を払い経過観察を行う453),454).
成人期の大動脈弁狭窄は弁石灰化が強く,バルーン拡大術の有効性が低いこと,治療後に大動脈弁閉鎖不全を合併する可能性が高いこと,脳塞栓
等の中枢神経合併症を起こす危険性あるため,弁に石灰化を伴わない若年成人の弁性狭窄を除いては,適応は限られている.近年,経カテーテル大
動脈弁置換術が国内でも導入されつつあり,今後大きな変革が期待される領域である.
成人期に見られるリウマチ性僧帽弁狭窄のカテーテル治療とは異なり,先天性僧帽弁狭窄でカテーテル治療が行われることはまれである.
④肺動脈狭窄
成人期の肺動脈狭窄の多くは,Fallot四徴等の心疾患に伴うものか術後に残存する狭窄である.このような狭窄に対し,これまでバルーンによる拡大
術,ステント留置術,カッティングバルーンによる拡大術が試みられている455).バルーン拡大術はあくまでも狭窄血管の伸展あるいは血管内膜や中膜
の断裂によって拡大が得られるため,拡大術後に再狭窄を起こす可能性が高い.また,肺動脈の断裂,動脈瘤形成,血管閉塞等の合併症を起こす危
険性がある.このため,最近ではステント留置術を併用することが多い.現在,国内で用いることのできるステントはPalmazステント,Palmaz-Genesis
ステントであるが,肺動脈狭窄を始めとする先天性心疾患に対する承認は得られていない.ステント留置による治療成績はバルーン拡大術よりも良好で
あり,より大きな血管径を獲得することができる.しかしながら,手技が煩雑でかならずしも目的とする狭窄部まで安全に到達できないこと(特にPalmaz
ステントの場合),留置後に内膜増殖に伴う再狭窄が認められること,留置時のバルーン破裂等に伴うステントの不完全拡張や脱落が起こること等,合
併症もまれではない.
カッティグバルーンは優れた血管拡大効果を得ることが可能とされているが,最大バルーンサイズが8mmと小さく,長期予後についても充分な検討が
行われていない.金属ブレードの脱落等の合併症も報告され,肺動脈狭窄に対する使用には注意を喚起する勧告が出されている.
⑤大動脈縮窄
大動脈縮窄に対するカテーテル治療は,バルーンによる拡大術やステント留置を併用した縮窄部の拡大術が報告されている456).未治療の大動脈縮
窄のみならず術後に残存する縮窄にも治療適応がある.バルーン拡大術では再狭窄の頻度が高く大動脈壁の解離や動脈瘤形成等の合併症を起こす
可能性が高い.これに対しステントを用いた拡大術は有効性も高く,大動脈壁の解離や動脈瘤形成の予防も可能と考えられている.しかしながら,大腿
動脈から太いロングシースの挿入が必要であること,近接する総頚動脈や鎖骨下動脈との位置関係等から,必ずしも治療に適していない場合もある.
血管造影,CT,MRI 等の画像診断を併用した慎重な適応評価が望まれる.ステント留置後にも再狭窄を来たす可能性があり,慎重な経過観察が必要
である457),458).
⑥冠動脈瘻
成人における症状は心不全症状である.心筋虚血や心内膜炎,心房細動,心破裂を来たすこともあり,有意な虚血所見がなくても治療を行う方が望
ましいとされている459).coilを用いる塞栓術が中心であるが,動脈瘻の直径,開口部位を正確に判断した後,塞栓に用いるdeviceを決定する.右心系
に開口し動脈瘻内に閉鎖に適した狭窄部がある場合,カテーテル治療に適していると判断される459),460).
⑦今後の展望
現在欧米では心室中隔欠損閉鎖用のAmplatzer deviceが臨床治験に入っている461),462).心筋梗塞後の心室中隔欠損に対しても応用可能である
463).また再発性脳梗塞患者に対するカテーテル卵円孔閉鎖術も様々なデバイスが登場し,その臨床的有効性についてもコントロールスタディが行われ
ている464)−467).さらにFallot四徴術後の肺動脈弁閉鎖不全に対する経カテーテル肺動脈弁留置術も急速に普及している468)−470).