Group 1 軽度リスク疾患  妊産婦死亡率<1%
 ・心房中隔欠損
 ・心室中隔欠損
 ・動脈間開存
 ・肺動脈/三尖弁疾患
 ・Fallot四徴(修復術後)
 ・生体弁置換術後
 ・僧帽弁狭窄(NYHA ClassⅠ~Ⅱ)
Group 2 中等度リスク疾患  妊産婦死亡率5~15%
 2A
 ・僧帽弁狭窄(NYHA ClassⅢ~Ⅳ)
 ・高度大動脈弁狭窄
 ・大動脈縮窄(弁合併症のない場合)
 ・Fallot四徴(未修復術)
 ・心筋梗塞の既往
 ・Marfan 症候群(大動脈拡張軽度)
 2B
 ・心房細動を合併した僧帽弁狭窄
 ・人工弁
Group 3 高度リスク疾患  妊産婦死亡率25~50%
 ・肺高血圧
 ・大動脈縮窄(弁合併症あり)
 ・Marfan症候群(大動脈拡張中等度以上)
動脈血差塩飽和度(%) 妊娠% 生産児
≦85 17 12
85~89 22 45
≧90 13 92
高度リスク疾患
 ・ 高度大動脈弁狭窄(平均圧較差>40mmHg,弁口面積<0.72cm2)
 ・高度大動脈縮窄,特に大動脈合併症を伴う場合
 ・高度僧帽弁狭窄
 ・体心室機能低下
 ・機械弁手術後
 ・肺高血圧
 ・Marfan症候群
 ・チアノーゼ性心疾患
妊娠を避けた方が良いと考えられる患者
 ・Eisenmenger 症候群
 ・Marfan症候群で大動脈拡張
 ・高度大動脈弁狭窄/大動脈縮窄
 ・体心室駆出率<35%
心疾患妊産婦死亡率(%)
大動脈弁狭窄10~20
大動脈縮窄5
Eisenmenger 症候群30~70
Marfan症候群25~50(推定値)
僧帽弁狭窄(心房細動の合併) 14~17
周産期心筋症15~60
特発性肺高血圧50
Fallot四徴(未修復術) 12
●妊娠中の心臓合併症の既往(心不全,一過性虚血あるいは妊娠前の脳血栓)
●妊娠前のNYHA class Ⅲ~Ⅳあるいはチアノーゼ
●左心閉要塞病変(僧帽弁口面積<2cm2,大動脈弁口面積<1.5cm2あるいは心エコー法での最大左室流出路圧較差>30mmHg)
●体心室収縮期心機能低下(駆出率<40%)
1 妊娠を避けることが望ましい疾患・病態
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①母体の予後規定因子

 妊娠・分娩に伴う容量負荷,血管の脆弱性や凝固亢進等による原疾患への影響が問題となる.多変量解析にて明らかとなった心疾患母体の心事故
(肺水腫,持続性頻脈性不整脈,治療を要する徐脈,脳梗塞,心停止,心原性死亡)を発症する4項目のリスク因子(表33)について,それぞれを1点とし
て点数化すると,心事故の発生は0点で5%,1点で27%,2点以上で75%との報告がある485).また,上記に加えて,重度の肺動脈弁逆流や肺循環心
室の機能低下,喫煙が母体リスク因子であるとする報告もある486)

 American College of Obstetrics and Gynecology(ACOG)は,母体死亡率をもとに各心血管疾患の危険度をクラス分類している487)(表34).またリ
スクの高い疾患についての母体死亡率も報告されている488)(表35)

 Eisenmenger症候群の妊娠出産の予後は不良であり,1970年代は母体死亡率が52%と高率であった489).また,22患者39妊娠で,15例が人工妊娠
中絶,14例が自然流産で,30%が帝王切開後に死亡したとの報告がある111).Eisenmenger症候群の母体死亡は40%との報告もある490).1978年から
1996年の報告の集計では,27例の妊娠で母体死亡が36%であった491).近年,新しい肺高血圧治療薬を用いた妊娠管理もされているが492),493),母体
予後は不良である.

 チアノーゼ性心疾患の予後も不良で,23妊娠のうち13妊娠が心機能低下し,うち7妊娠は心不全を発症との報告がある494).チアノーゼ性心疾患44患
者96妊娠で,死亡1例(感染性心内膜炎),心合併症14例,心不全8例とも報告されている495)

 Marfan症候群で大動脈径が40mm以上の大動脈拡張や僧帽弁逆流がある場合は,妊娠中のリスクが高い496),497)

 ヨーロッパ心臓病学会のGrown Up Congenital Heart Disease(GUCH)ガイドラインでは,妊娠ハイリスク群および妊娠を避けることが望ましい疾患群
表36のように示している498)

②胎児の予後規定因子

 心機能低下例の妊娠では, 胎児合併症が多いが,NYHA機能分類Ⅳでは胎児死亡率が30%とされている499).母体の高度チアノーゼは流早産と胎
児死亡を引き起こしやすい500).母体のヘマトクリット値65%以上では妊娠の継続は難しい500).母体の動脈血酸素飽和度が86~ 90%では児の生存率
は50%以下,85%以下では12%とされている495)(表37)

 チアノーゼ性心疾患の妊娠の分析では,自然流産51%,死産6%,早産16%,正期産27%と高率に胎児合併症を認めた495).また,別の検討では,
14%が死産,36% が子宮内胎児発育不全(IUGR; intrauterin growth restriction)と同様の傾向である501).早産率は17%(自然早産59%),子宮内胎
児発育不全は3.6%とする報告もある.

 早産・子宮内胎児発育不全・新生児死亡をあわせた新生児合併症の解析では,NYHA機能分類>Ⅱまたはチアノーゼと左室閉塞性病変が有意な危
険因子であった485).また,NYHA機能分類Ⅰ,Ⅱの心疾患患者(先天性心疾患:72%)で,子宮内胎児発育不全は20%であった502).さらに,心疾患患
者(NYHA lassⅠ~Ⅱ:175人NYHA機能分類Ⅲ ~ Ⅳ:32人, 先天性心疾患11.5%)での早産率25%,子宮内胎児発育不全18%で,早産率と低出生
体重児はNYHA機能分類Ⅲ~Ⅳで有意に多いと報告された503).重症心疾患の妊娠は,子宮内発育遅延,早産や低出生体重児の比率が高い.

 Eisenmenger症候群は児の予後も不良で,早産率53~100%,新生児生存率75~ 92%とされている111),490),491)

③ 妊娠が母児にとって危険で,妊娠中絶,妊娠中の厳重な管理,あるいは妊娠前に修復術の施行を考慮することが望ましい疾患

(1)NYHA機能分類Ⅲ以上
(2)未修復術のチアノーゼ性心疾患
(3)狭心症発作歴
(4) 中等度以上の左室流出路流入路狭窄(僧帽弁,大動脈弁,大動脈)
(5)心機能低下(ejection fraction< 40%)
(6)Eisenmenger症候群
(7)大動脈径が40mm以上のMarfan症候群
(8)機械弁
(9)Fontan術後

 これらの疾患群では専門医と協力し,患者へ十分な説明をした上で方針を決定する必要がある.

 NYHA機能分類Ⅰ~Ⅱの母体死亡率はほぼ0%だが,心合併症を認めることがあり,妊娠出産には注意が必要で,患者への十分な説明が必要であ
る.
 
 
表33 心疾患患者において妊娠中に心臓合併症を発症するリスク因子
表34 心疾患別にみた妊産婦死亡率
表35 妊産婦の高度リスク心疾患
表36 成人先天性心疾患の診療専門施設によるガイドライン
表37 母体動脈血酸素飽和度と生産児出生率
成人先天性心疾患診療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Management of Congenital Heart Diseases in Adults(JCS 2011)