①カウンセリング
性成熟期に入った患者は,妊娠・避妊に関するカウンセリングを必要とする.避妊に関するカウンセリングは,母体・児のリスクから判断すべきであり,カ
ウンセリングを行う人の個人的観念にとらわれないことが大切である.妊娠を望まない者あるいは妊娠は望ましくないとされる者を含め,心疾患を持つす
べての女性にそれぞれに適した避妊法をすすめる.
妊娠が危険と考えられる患者,または妊娠出産後の経過観察中に心機能の悪化がみられ,次回の妊娠をすすめられない患者には,避妊の必要性,ま
た避妊方法について,循環器担当医と産婦人科医の双方から本人およびその家族に,個々の状況に即した最適な避妊法を,十分説明し同意を得ておく
ことが望ましい.
②避妊法(表38)504)
避妊に失敗すれば重大な転帰がもたらされるため,心疾患の重症度が高いものほど,効果の高い避妊法が推奨される.また,エストロゲン製剤の易血
栓性等,副作用に対する厳重な注意が必要であり,適切な避妊法の選択が不可欠である.
1)卵管結紮
永久不妊術であるが,再疎通させることはできない.
①帝王切開時の卵管結紮
最も簡単で確実.
②経膣分娩後の卵管結紮
分娩翌日,もしくは2日後に実施.
③膣式卵管結紮術
子宮内掻爬による妊娠初期の人工妊娠中絶術に続いて膣式に卵管結紮術が可能.
④内視鏡下卵管結紮術
小切開で手術が可能.Eisenmenger症候群患者22例の卵管結紮術において,1 例の死亡と1 例の循環不全を認めたとの報告がある111),505).
2)子宮内避妊器具(IUD/S; Intrauterine Device/System)
手術操作は容易で,比較的安全.抜去すれば再び妊娠が可能.約2%に骨盤内感染症があり,卵管性不妊となる危険があり未産婦には推奨できない
505).感染性心内膜炎のリスクがあり505),506)骨盤内感染症や感染性心内膜炎を発症時は,除去.抗凝固療法を行っている患者では子宮出血が問題と
なることもある505).高い避妊効果が期待できるプロゲストーゲン徐放性子宮内避妊器具も発売されている.
3)低容量エストロゲン含有避妊薬
避妊効果は高いが,副作用として,水分貯留,血栓症,血圧上昇等が問題.チアノーゼ性心疾患では,血栓の発症が多い506).Eisenmenger症候群で
は心機能悪化とチアノーゼの増強が見られ,血栓症による死亡も認められている111).低容量エストロゲン避妊薬を控えるべき疾患を表39に提示する
505).
4)プロゲストーゲン単剤避妊薬
排卵阻害作用がないため,毎日ほぼ同時刻に使用しなくてはいけない.血栓リスクを高めない点,エストロゲンを用いた避妊法に比して安全である.
5)コンドーム
確実に正しく装着していれば,避妊効果は高い.
6)基礎体温
本人の自覚のみに任せるので確実性はない.
7)パートナーの避妊手術
パートナーの女性が死亡することもあるので積極的にはすすめられない.