全心臓移植の1年生存率は約80%であるが,移植後1~2年以降は右下がりの直線で3~4%が毎年亡くなる594).この理由に移植心冠動脈病変(CAV)
がある.
移植心冠動脈病変は,移植後数か月から数年の経過で出現し進展する冠動脈狭窄で,粥状冠動脈硬化と異なり(表51),移植心の慢性的虚血を来た
す.
移植心は除神経心であるため狭心症の症状を示さず,冠動脈の狭窄病変はびまん性のため,通常の冠動脈造影では病変をとらえにくく,冠動脈予備能の
低下596),601),血管内超音波法(IVUS)で肥厚した血管内膜を観察することで診断される.冠動脈バイパス術や冠血管形成術は無効なことが多く,冠動脈
病変が進行すれば,移植心全体の慢性的虚血をもたらすため,救命は再移植しかない.
本病変が出現し進展する原因は,免疫学的要因と非免疫学的要因がある.拒絶反応,サイトメガロウイルス感染等の免疫学的機序による血管内皮障害に
より惹起されると考えられているが,移植手術時の再灌流障害やドナー心虚血,また高齢のドナー,ドナーの高血圧,移植後の高血圧,脂質異常症等による
血管内皮障害も加わり,それらが総合的に本病変を形成する601).
移植心冠動脈病変に対して,Proliferation Signal InhibitorともいわれるmTOR阻害薬であるエベロリムスは,大規模臨床研究ではアザチオプリンに比して
冠動脈内膜肥厚を抑制するばかりでなく,サイトメガロウイルス感染症も減らすことが明らかになった602).