肺移植の適応は,一般的適応指針(表52)のごとく,移植以外の最大限の治療に反応しない慢性進行性肺疾患で,肺移植以外に患者の生命を救う有
効な治療手段がなく,残存余命が限定されると判断される場合が適応となる.我が国での年齢のめやすは,心肺移植55歳末満,両肺移植55歳末満,片
肺移植60歳末満とされている.
最近では,肺移植の成績や肺移植後の右心不全の管理が向上したこと,ドナー不足がさらに深刻になってきていること(心肺移植では,1人の人を救うの
に3つの臓器が必要なため)から,心肺移植の適応疾患が限定され,片肺または両側片肺移植の適応が拡大してきている.また,心肺移植の適応疾患の
生命予後は,心または肺単独の移植の適応疾患の予後より良いことが多いので,適応の判定には慎重を要する.ドナー不足の深刻な我が国では,心肺
移植の適応基準は厳格である(表53,54).
肺血管系の異常に起因した疾患に肺移植を行う場合に,その病変が片側性でない限り,両側片肺移植を行うことが望ましい.そのため,成人先天性心疾
患に伴う肺移植の術式は両側片肺移植または生体両側肺葉移植を行うことが多い607),608).
① 成人先天性心疾患に関連した肺移植・心肺移植の適応基準
1)Eisenmenger 症候群
肺移植または心肺移植の適応を決めるためには,本症の自然予後を知る必要があるが,患者の余命を予測することは困難である.下記(1)~(3)に示す
ような条件を満たせば,2年以内に死亡する確率が高いので,適応を検討する111),604),611). 先天性心疾患の中で,Eisenmenger症候群とそれ以外を比
較すると,前者が有意に予後不良である.しかし,Eisenmenger症候群に限ると,たとえ単純先天性心疾患の合併例でも,心肺移植と成績に差はなく,両
参照).
(1)心不全(右・左単独,両心不全の場合あり)
● 薬剤投与によってもNYHA機能分類Ⅲ~Ⅳから改善しない場合
● 臓器障害(肝腎機能障害:ただし不可逆的)が認められるようになった場合
(2)難治性の心室性不整脈
(3)頻回の喀血(気管支動脈栓塞術無効例)
2) 肺実質・肺血管の低形成,高度肺静脈狭窄を伴う先天性心疾患
在宅酸素療法を行っても,NYHA機能分類Ⅲ~Ⅳから改善しない場合
3)先天性心疾患に起因した肺動静脈瘻
在宅酸素療法を行っても,NYHA機能分類Ⅲ~Ⅳから改善しない場合
②肺移植・心肺移植の適応除外条件
多くの適応除外条件が具体的に設けられている(表55,56).また,肺移植レシピエント選択の国際ガイドライン612)では,HB抗原陽性例,肝生検で肝疾
患を認めるHCV陽性例も禁忌とされている.
③成人先天性心疾患の肺移植・心肺移植の現状
国際心肺移植学会の統計(1995年1月~2009年6月)によると603),成人の片肺移植の適応疾患で,先天性心疾患は,0.3%,成人の両肺/両側片肺移
植の適応疾患は,先天性心疾患1.3%であり,先天性心疾患による肺移植症例は多くない603).それに対して,成人の心肺移植の適応疾患に先天性心疾
患の占める割合は大きい.1982~1995年(1,510例)の適応疾患は,先天性心疾患32.5%(490例),特発性肺高血圧30.0%(453例)であったのに対し,
2006年1月~ 2009年6 月(675例)では先天性心疾患43.6%(294例),特発性肺高血圧24.0%(162例)であった603).
少ない.心室中隔欠損613)を合併したEisenmenger症候群1例で脳死両側片肺移植が行われ,心房中隔欠損を合併した特発性肺高血圧614)と心房中隔
欠損によるEisenmenger症候群の各1例で生体両側肺葉移植が実施された.