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 完全大血管転位(TGA; transposition of great arteries)の心房位血流転換術(ASO; atrial switch operation,Seninng手術940),Mustard手術941))後
の血行動態を特徴づける要素は,心房内バッフルによる血流血流転換,体循環を担う右室(systemic ventricle)の2つである.これらが誘因となって,バッ
フル狭窄により上大動脈症候群と下大静脈流入阻害によるうっ血肝/肝硬変,バッフル漏れ,肺動脈弁(弁下部)狭窄,右室不全,三尖弁閉鎖不全,肺高
血圧,不整脈が起こる.下大静脈より上大静脈の狭窄が多い.バッフル漏れは約25%に発生し,頻脈発生時や心内膜ペースメーカ挿入では奇異性塞栓
の誘因となる942)

 肺動脈弁(弁下部)狭窄は,拡大した右室による左室の圧排や捻れによって起こる.肺静脈狭窄が発症することもある4).軽度から中等度の三尖弁閉鎖
不全は一般的に見られ,悪化する傾向にあり,右室不全と併存する943)−945).三尖弁閉鎖不全は,心室中隔が左室側へ右室側から圧排されて三尖弁中
隔尖を引っ張る形になるため起こる946)

 洞結節機能不全や心房粗動も術後長期に問題となる.洞結節機能不全の原因は,手術による洞結節や心房内伝導組織への血流障害,切開後瘢痕に
よる洞結節の線維化とされる.術後26~ 31年で35%の患者が心房粗動を経験する67).心室性不整脈はまれである.

 肺高血圧の頻度は約7%とされる947).三尖弁閉鎖不全の悪化が肺高血圧を起こすことがあるが,多くは原因不明である.Mustard手術後早期に肺高血
圧が見られる患者群は,将来,肺高血圧が増悪する危険性がある946)
1 解剖学的特徴と病態生理
成人先天性心疾患診療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Management of Congenital Heart Diseases in Adults(JCS 2011)