Ⅰ度 心疾患があるが,身体活動に制限なし,通常の労作で症状なし
Ⅱ度 心疾患があり,身体活動が軽度に制限される,通常の労作で症状あり
Ⅲ度 心疾患があり,身体活動が著しく制限される,通常以下の労作で症状あり
Ⅳ度 心疾患があり,すべての身体活動で症状が出現する,安静時にも症状があり,労作で増強する
Class Ⅰ 有用性・有効性が証明されているか,見解が広く一致している
Class Ⅱ 有用性・有効性に関するデータあるいは見解が一致していない場合がある
Class Ⅱa データ・見解から有用・有効である可能性が高い
Class Ⅱb データ・見解から有用性・有効性がそれほど確立されていない
Class Ⅲ 有用・有効でなく,時に有害と証明されているか,否定的見解が広く一致している
Level A 複数の無作為介入臨床試験やメタ分析で実証されたもの
Level B 単一の無作為介入臨床試験や,無作為介入でない臨床試験で実証されたもの
Level C 専門家の意見,ケース・スタディー,標準的治療等で意見が一致したもの

改訂にあたって

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 内科,外科の発達の恩恵を受け,多くの先天性心疾患患者が成人となることが可能となり,我が国では,既に4,000,000人以上が成人患者となって
いる1),2).先天性心疾患は,生産児の約1%に発生するため,日本では年間1万人あまりが生まれ,そのうち90%の9,000人以上が成人する.したがっ
て,今後,成人先天性心疾患患者数は,現在の人数の5%の割合で増加し続けると予想される.成人先天性心疾患は,18歳以上あるいは20歳以上の
先天性心疾患患者とする報告もあるが,このガイドラインでは,小児期とは医学的問題点が大きく異なり,小児科から内科へと診療科が異なる15歳以
上の先天性心疾患と定義した.1970年頃は,先天性心疾患といえば,子どもの病気だったが,1997年には,成人患者数と小児患者数はほとんど同数
になった2).さらに,2020年には,成人患者数は,小児を遙かに凌駕すると予想される.すなわち,先天性心疾患は,既に成人循環器疾患の1領域と考
えて差し支えない.

 先天性心疾患患者は,成人後も主に循環器小児科医が継続して診ていることが多いが,管理が循環器内科医に移行している場合も増えている.小
児の未修復手術チアノーゼ型先天性心疾患は減少しているが,成人では一定数存在し,長期間継続したチアノーゼの合併症として生じる系統的多臓
器異常に対する加療が必要である.複雑心疾患術後の成人患者も増加している.先天性心疾患手術の多くは根治とはなっておらず,合併症,遺残症,
続発症を伴う.このため,生涯にわたっての経過観察が必要なことが多い.さらに,加療を必要とする場合も少なくない.加齢に伴い,心機能の悪化,不
整脈,心不全,突然死,再手術,感染性心内膜炎,妊娠,出産,高血圧,冠動脈異常,非心臓手術等により病態,罹病率,生命予後が修飾される.ま
た,就業,保険,結婚,心理的社会的問題,喫煙等成人特有の問題を抱える3).このため,成人先天性心疾患全体の約1/3を占めるとされる4)重症度が
中等度以上の成人先天性心疾患の多くは,成人先天性心疾患を専門とする医師を中心とした循環器小児科,循環器内科,心臓血管外科,麻酔科,産
科,内科,看護師,臨床心理士等を含むチームでの診療を必要とする1).再手術,内科治療を含む,継続的な診療により,重度と考えられる患者さんも
QOLが改善し,長期の生命予後が期待できる.また,動脈管切離術後は,根治術であり,経過観察の必要がないと考えられている.

 欧米では,1998年のカナダの成人先天性心疾患ガイドラインに始まり,これまでに成人先天性心疾患に関するガイドライン4)−6)が公表され,成人先天
性心疾患に関するテキストブック7)−9)も発刊されている.米国はACCとAHAが2008年に成人先天性心疾患ガイドライン4)を初めて公表した.CCSは,
2002年に発表,2009年に改訂した.さらに,2010年は,ESCが成人先天性心疾患ガイドラインの改訂版を公表した.一方,日本でも,成人先天性心疾
患に関する日本循環器学会ガイドライン9)−13)が2002年に報告9)され,2006年に改訂10)された.また,テキストブック1),14)−16)も刊行されている.

 我が国では前回のガイドライン発刊(2006年)10)以後,この5年間に多くの共同研究がなされ,データが蓄積されている.また欧米でのこの分野での
研究発表も年々増加している.そこで,これらの動向を取り入れ,今回の日本循環器学会ガイドラインの部分改訂版が企画された.また,軽度から中等
度疾患も経過観察が必要であり,複雑疾患と同様に,解決すべき問題点が多いことがわかってきた.このため,今回のガイドラインでは,前回のガイドラ
インと異なり,これらの疾患に関しても,新たに項目を設けて記載した.また,前回のガイドライン公表後に報告された論文のデータを可能な限り取り入
れ,updatedな内容にすることを心がけた.特に,疾患各論に関しては,大きく改訂した項目もある.

 それぞれの手技・治療法に関する,「証拠のレベル」と「推奨の程度」は,ACC/AHAのガイドラインの記載法に従った(表1,2).しかしながら,成人先
天性心疾患の研究分野は,対象症例が比較的少なく,解剖,血行動態の異なる多くの疾患を含むため,対照を設けた大規模研究が困難である.この
ため,前向き研究は行いにくく,後方視的な臨床研究がほとんどを占めている17).したがって,ランク付けが困難なことが多いため,必ずしもすべての項
目において「証拠のレベル」と「推奨の程度」を記載したわけではない.また,証拠のレベルは,専門家の合意に基づく場合が多いため,推奨すると記載
した項目の多くは,後方視的な臨床研究に基づいている.この点で,今回のガイドラインは,臨床に即した実際的な改訂が行われたものと考えている.
心機能分類は,チアノーゼ性疾患を除いて,NYHA心機能分類を用いた(表3)

 ガイドラインの目的は標準的な診療情報の提供であり,個々の症例における臨床的診断の決定・責任はそれぞれの医師と患者さんにあることを改め
てご認識いただいた上で,このガイドラインを活用いただくことをお願いしたい.
 
本ガイドラインで用いられる主な略語
ACC:American College of Cardiology 
AHA:American Heart Association 
CCS:Canadian Cardiovascular Society
ESC:European Society of Cardiology
NYHA:New York Heart Association
表1 証拠のレベル
表2 推奨の程度
表3 NYHA(New York Heart Association)の心機能分類
成人先天性心疾患診療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Management of Congenital Heart Diseases in Adults(JCS 2011)