先天性心疾患患者は,その生命予後が改善し,成人期に達するようになった34).成人先天性心疾患患者では,手術施行の有無にかかわらず,不整脈が
症状,入院,血栓症等罹病の原因となることが少なくない.また心機能低下や心不全症例に不整脈が合併すると,心臓突然死を生じることがある35),36).不
整脈は,先天性心疾患患者の“術後歴”を左右する大きな要素であるといえる.
成人先天性心疾患における不整脈の原因・メカニズムは,形態異常に基因する内在的不整脈基質による場合もあるが,後天的不整脈基質によるものが多
い37).手術未施行の場合は慢性的血行動態異常やチアノーゼによる心筋病変が,修復手術後症例の場合は,遺残病変,心機能低下による心筋病変,手
術瘢痕が主な原因(不整脈源性基質)と考えられる.
不整脈の管理は,基礎疾患のない場合とは異なり,先天性心疾患に関しての解剖学的・血行動態的知識,手術方法に関する知識が必要となる38).
1960~ 1970年代に手術を行った先天性心疾患術後患者は,不整脈を伴うことが多く,予後も悪い.しかし,手術方法の改善,この10年の電気生理学にお
けるマッピングシステムのコンピューター化による不整脈基質の解明等の進歩により予後は改善している39)−51).遠隔期死亡の主要原因である心室性不整
脈もデバイス治療の発展が治療効果を上げている52)−54).
基礎心疾患がない場合は血行動態的に大きな影響を与えないような不整脈が,成人先天性心疾患では血行動態的に耐容できず,心室機能不全を惹起あ
るいは悪化させ,心不全,突然死に至ることもある.不整脈が基礎心疾患や遺残病変による血行動態の異常,悪化の初期サインのことがあり,心臓カテーテ
ル検査を含む循環動態の全般的評価が必要なことがある.その結果,外科的手術の適応となることもある.また,心房手術後患者では,洞結節機能不全を
合併していることも多く,抗不整脈薬治療により徐脈が悪化し,ペースメーカが必要になることもある.
すなわち,成人先天性心疾患の不整脈を管理,治療するためには,不整脈診断の他に,心機能評価,血行動態評価が必要である.さらに,不整脈や突然
死の危険因子を検索し,予防を講じることも重要である.先天性心疾患は,解剖や手術方法が多様であるため解剖や術式に伴う血行動態についての理解が
必要であり,循環器小児科医,循環器内科医,不整脈専門科医,心臓外科医の協力が必須である.
①メカニズム
不整脈の基質は大きく3つに分類される(表5)55)−60).
1)先天的で術前から存在する異常
副伝導路を介する房室回帰性頻拍,房室結節回帰性頻拍,心房頻拍,心房粗動,心室頻拍の他,重複房室結節による房室回帰性頻拍が含まれる.
2) 先天性心疾患に伴う血行動態的異常(圧・容量負荷)や低酸素による心筋病変によるもの
弁狭窄による圧負荷,弁閉鎖不全や心内短絡による容量負荷,術後の遺残病変も含む.心筋病変を原因とするマクロリエントリ性頻拍,異所性起源による
頻拍が含まれる.
3)手術により新たに生じた続発症
手術切開線やパッチ閉鎖部位等手術により生じた様々な障壁に伴うマクロリエントリ性頻拍.
頻脈性不整脈診断の際の注意点として,術後は,先天的または後天的に脚伝導障害を伴う場合があり12誘導心電図で上室頻拍か心室頻拍かを鑑別す
ることが困難である場合がある.これらの不整脈の電気生理学的異常は,刺激生成,興奮伝導の異常,あるいはこれらの複合により生じる.異常自動能,ト
リガードアクティビティが刺激生成の要因である.興奮伝導異常には伝導ブロック(洞結節,房室結節,ヒスプルキンエレベル)による徐脈や一方向性ブロック
によるリエントリーがあり,徐脈性不整脈も同様に先天性に存在する洞機能異常,房室伝導異常の他,2),3)を原因とする刺激伝導路の障害に伴う洞機能異
常,房室伝導異常がある.
②頻度
先天性心疾患は複雑心疾患ほど不整脈の頻度が高いが,単純なものでも術後遠隔期には不整脈を生じる61).Fallot四徴術後は,17年で30%に上室頻拍
62),35年で11%に高度の心室性不整脈を合併し63),さらに,除細動器の植込み例が多く54),10年で2%の頻度で心臓突然死64)を生じる.Fontan術後,
Mustard/Senning術では,約20年で40 % 以上に上室頻拍を生じ65),66),Mustard/Senning術では術後10年間でほとんどの例で,洞調律を維持できない
67),また,血栓症のリスクも高い68).