感染性心内膜炎は,一定数に発症し115),116),罹病率,死亡率が高い.最近は,成人先天性心疾患に多く認める117)−119).成人先天性心疾患にみら
れる心内膜炎の特徴を表8に示す117),118).
発症予防は非常に重要で,予防のためには,(1)ハイリスク心疾患,(2)感染危険率の高い手技・処置,(3)心内膜炎の予防法を認識することが必要
である.AHAの心内膜炎ガイドラインは,中等度リスク以下の先天性心疾患では,歯科処置の際の抗菌薬予防が推奨されないとした120).2008年の
AHAの成人先天性心疾患ガイドラインは,高リスク群での予防投薬を推奨するとともに,大動脈二尖弁等ハイリスク心疾患以外でも予防投与を許容して
いる4).一方,日本循環器学会の心内膜炎ガイドラインは,心房中隔欠損(二次口型)を除きほとんどの先天性心疾患で予防投薬を推奨している13).日
本の先天性心疾患の心内膜炎に関する多施設研究結果では,中等度リスク群の歯科処置後の心内膜炎発症を6%程度に認めている.さらに,心内膜
炎の死亡率は8.8%であり,いわゆる中等度リスク疾患以下でも心内膜炎による死亡率は決して低くはないとしている117).
①基礎心疾患別リスク(表9)
心房中隔欠損単独の場合を除く,大部分の未修復先天性心疾患は,心内膜炎のリスクがある.複雑先天性心疾患は,人工材料を用いる手術が多く修
復術後も感染リスクが高い.日本の多施設研究117)では,術後の心内膜炎が全体の55%を占める(修復術後:63%,姑息術後:37%).この内,チアノー
ゼ性心疾患は75%で,姑息術後では,高頻度に認められる.成人先天性心疾患の心内膜炎は,心室中隔欠損が多く,次いで,Fallot四徴,僧帽弁疾
患,大動脈弁疾患と続く117),121).
②症状
感染症状(発熱等)に基礎疾患,感染部位,塞栓部位,免疫学的反応等の影響が加わり,多彩な症状を呈する.合併症は,弁逆流悪化,心不全,弁
輪部膿瘍,人工弁機能不全,全身塞栓,脳塞栓,不整脈,膿瘍形成,細菌性動脈瘤であり,全体の約50%に認められる122).
③診断
Duke(modified) Criteria123),124)は先天性心疾患にも有用な診断基準とされる.
1)血液培養
原因菌は初期3回の培養で検出されることが多いため,培養は24時間に2~ 3 回で十分である125).菌血症は持続的に生じているため,高熱時のみに
培養を行う
意味はない.血液培養の陽性率は,68~ 98%である(日本多施設研究では84.1%)117).
2)心エコー法
疣腫の大きさ,形態,位置,可動性,弁逆流,心機能を診断できる126),127).塞栓のリスク,手術適応の決定にも有用である.人工材料感染は,疣腫の
検出が困難な場合がある125).
3)内科的治療法
① 推奨される抗菌薬とその使用法(菌種が同定されている場合)
② エンピリック治療(菌種が同定されていない場合)
一般的に,亜急性(口腔内感染が疑われる場合等)であれば,α溶血性レンサ球菌,腸球菌に有効であるペニシリンG(ないしはアンピシリン)とアミノグ
ルコシド系薬剤の組み合わせとする.急性でメチシリン耐性ブドウ球菌が強く疑われる場合,心臓手術後2か月以内で,特に人工弁置換術後は,バンコ
マイシンを併用する128).
4)外科的治療法
外科手術の適応,時期
外科療法の適応は,心不全増強,感染コントロール不良,可動性疣腫(> 10mm),塞栓,真菌感染,人工弁感染,進行性病変(弁輪周囲膿瘍,心筋
膿瘍,伝導系異常),人工材料(グラフト等)感染である129),130).急性期でも,血行動態が悪化すれば,ためらわずに外科治療を行うことが推奨されてい
る13),131),132).
5)予防
予防に関する患者教育は大切で,特に10~ 20歳台の患者は,予防に関する注意を繰り返し喚起する必要がある133),134).
① 予防を必要とする手技,処置
循環器病の診断と治療に関するガイドラン・感染性心内膜炎ガイドラインを参照13).正常分娩でも,会陰切開等侵襲的操作を加えることも多いため,感
染リスクがある疾患での出産時は,抗菌薬投与が推奨される4).
② 歯科,口腔,呼吸器,食道の手技,処置における抗菌薬予防法(表10)
抗菌薬予防が重要だが,日常生活での予防(歯磨きの励行,にきび,アトピーのケア,爪かみの中止等)も重要である11),134).心臓手術予定患者は,
歯科処置を術前に済ませることが推奨される.