成人先天性心疾患の評価と管理に心エコー法は欠かせないものである35),174)−179).小児期に外科的修復術を受けていることも多いが,心房中隔欠
損,大動脈二尖弁等診断されないまま成人に達する例もある6),180).
一般的に先天性心疾患は,小児期に診断がなされ,外科的治療が行われている場合に,その正確な診断名,術式の情報が得られやすいが,経過観
察から全くはずれてしまい,本人自身がそれらの情報を両親から聞かされていないこともある.
多くの病院の循環器内科では,検査技師(ソノグラファー)が心疾患のスクリーニングを行う.先天性心疾患に不慣れな成人の心エコー法検査室の正診
率は,専門的なトレーニングを受けた検査技師や循環器小児科医に比べ明らかに低い181).
成人循環器外来で最も頻度の高い先天性心疾患は心房中隔欠損で,次いで心室中隔欠損である.Fallot四徴,動脈管開存が続き,頻度の低いものと
してEbstein病,完全大血管転位がある.刺激伝導系の異常や弁逆流が問題となり受診した例で修正大血管転位が見つかることがある.
経胸壁心エコー法は断層法とドプラ法を用い,形態診断,血行動態診断,さらに心機能評価を行う182).形態診断は,区分分析法(Segmental
approach)を用いることが有用で,これにより内臓心房位,心房心室関係,心室大血管関係について基本的な心血管の立体的位置関係を理解する183),
184) (表21).区分分析法により複雑心疾患であっても,基本的な解剖,血流の流れの把握ができる.さらに,心腔のサイズ,機能や弁の形態,機能の評
価を行う.右室の圧負荷では心筋の肥厚と心室中隔の扁平化を認め,容量負荷では右室容積が拡大する.心房拡大は還流血流量の増大または房室弁
逆流による.これらの基本原則に基づき系統的な診断を進めることが重要である.血行動態評価には,カラードプラ法による異常血流の存在と負荷の種類
と程度,狭窄や弁逆流の程度を判定する. 心機能評価では, 駆出率やmyocardial performance index等が用いられる185).右室機能評価の結果は,運
動能低下のみならず,致死性不整脈の発生や予後とも関係があるため,治療方針の決定に重要であるが,二次元経胸壁心エコー法では正確な評価に
限界がある186),187).成人,特に,修復術後は,経食道エコー法が有用な場合が少なくない(表22).術後の先天性心疾患の診断を的確に行うには,姑
息術,修復術の術式と術後経過を把握しておく必要がある.また,コントラスト心エコー法は,心内短絡の診断や心室造影,ドップラ信号の増強等が可能
であり,卵円孔開存を含む心房内短絡や肺動静脈瘻,左室緻密化障害や心腔内血栓等が疑われる症例に有用である188)−190).
Amplatzer® Septal Occluderを用いた心房中隔欠損に対するカテーテル治療が行われるようになり,経食道心エコー法は治療ガイドとしての役割を担
うようになった190)−198).また,三次元心エコー法は,複雑な形態を示す先天性心疾患の形態評価や弁形態評価において,二次元心エコー法では見るこ
とのできない画像を提供し,正確な右室機能評価の実現も可能である199)−209).
適応ではない(Class Ⅲ)210).
成人先天性心疾患は,中等度以上疾患の修復術後評価が必要なことが少なくない.その場合は,(1)右室や肺動脈等右心系の評価が必要,(2)癒着
等により画像が鮮明ではない,(3)人工材料の使用が多い,(4)しばしば経食道心エコー法が必要になる等の特徴がある.また,Fontan等循環器内科
医が不慣れで,特殊な血行動態を伴う疾患があり,この様な場合には,複雑心疾患の心エコー法に習熟した医師に依頼することも必要である.