① MRI
成人先天性心疾患における心臓MRI(CMR; cardiac magnetic resonance imaging)は近年ルーチンの検査として行われている225),226).しかし,そ
の多くは虚血性心疾患のプロトコールを応用したものである227).多彩な血行動態を有する成人先天性心疾患に対して単一のプロトコールを設定すること
は困難である228)−230).
シネMRI は形態だけでなく,左右心室容積,心筋重量,心機能や壁運動評価が可能である.成人正常心だけでなく,Fallot四徴のような拡大した右室
や小児の心機能解析の正常値が報告されている231)−233).特に体心室右室の評価では他のモダリティに比較し再現性に優れ,現在では標準的評価法
となっている103),234),235).また,弁の形態や逆流の程度,狭窄部位やその程度236)−238),さらに心内外の短絡239)や心血管内の乱流を表示できる.
スピンエコー法によるBlack-Blood画像は内腔と血管壁のコントラストがはっきり描出され,心血管とそれ以外の胸部構造との関係が評価しやすい
240).
フェーズコントラストMRI では血流の速度や流量の評価が可能であり,心拍出量や肺体血流比,弁逆流,左右肺血流の定量が可能である241)−245).
心血管の形態評価にはガドリニウム造影剤を使用する方法246),247)と,造影剤を投与せずに心電図と呼吸同期を併用する方法が行われている248)−
250).造影剤を使用することで心筋血流評価251),さらに遅延造影像として心筋の線維化が描出できる252)−254).遅延造影とFallot四徴術後遠隔期にお
ける予後との関連も報告されている80).なお,ガドリニウム造影剤の使用は推算糸球体濾過値(GFR)が30未満の場合には腎性全身性線維症(NSF;
Nephrotic systemic fibrosis)の発症リスクが高く禁忌である255).
開胸術やカテーテルインターベンション施行後は,心内外に装着したデバイスがMRI に対応しているかどうかを検査前に把握しておく必要がある.ペー
スメーカやICDは本体だけでなくペースメーカリード残存例も禁忌である.たとえ本体を取り除いていても心筋リードが残存している場合には,検査部位に
かかわらずMRI の静止磁場の影響を受けるため,MRI 検査室への入室は控える256) (2010年現在).その他,近年販売されている人工弁やステント等
のデバイスのほとんどはMRI 検査での危険性は少ないが,古い製品で判断に迷う場合はデバイスのメーカーに確認する必要がある.また,それらの金
属によりアーチファクトが出現し,診断的価値のある画像が得られない場合もある.
② CT
CTは高い空間分解能を有し検査時間が短い利点から,成人先天性心疾患の分野でも頻用されている257),258).特に心エコー法で評価しにくい肺静
脈259),260)や大動脈261),冠動脈262),末梢肺動脈の評価に優れている263)−265).主要大動脈肺動脈側副血行路(MAPCA; major aortopulmonary
collateral arterie)の評価ではCTの方が心臓カテーテル検査よりも描出能に優れており,血管径評価では両方法の相関は良く,CTでの血管径測定の
再現性も高い266).また,新生血管や検査前に診断のついていない構造物の評価に関しての見落としが少ない267),268).さらに,他臓器との空間的な位
置関係の把握が容易で術前検査としても有用である269)−271).一方,被ばくを伴うため,検査の適応決定に際して肺や乳腺の生涯発がんリスクを考慮す
る必要がある272)−274).若年者ほど放射線感受性は高く,冠動脈CTにおいて20代女性の発がんリスクは60 代男性と比較し8.8 倍高いと推定されてい
る272).また,ヨード造影剤投与が必要であり,腎機能低下例においては,検査前に十分な水分投与と消炎鎮痛剤の中止が必要である275).特にチア
ノーゼ性先天性心疾患は腎予備能が低く276),明らかな推算糸球体濾過値の低下がなくても造影剤腎症のハイリスク群として適切な対応が必要であ
る.
③ RI
冠動静脈瘻やBWG症候群のような先天性冠動脈異常では治療方針決定のために有用な場合がある276)−280).さらに冠動脈スイッチを伴う完全大血
管転位のJatene術後やRoss 手術後では無症状で冠血流予備能が低下している症例が認められる281),282).形態的な冠動脈狭窄を伴わない症例もあ
り,予後との関連は明らかではない.体心室右室では前壁や下壁に負荷時の心筋血流低下を伴うことが多く,血流低下と収縮能低下とに正の関連があ
ると報告されている283)−285). 心筋血流PET(Positron Emission Tomography)を用いた検討では,チアノーゼ性先天性心疾患の冠血流量は安静時に
は正常よりも増加しているが,負荷時の冠血流量は正常より少ない.このため,冠血流予備能は低い286).心電図同期SPECT(QGS; Quantitative
gated SPECT)は心室容積,駆出率のみならず局所壁運動の評価も可能である287).壁運動の時相的な不一致の評価が可能であり,心臓再同期療法
の効果判定が可能である288).心電図同期心プールシンチグラフィーで評価した体心室右室機能はMRI の結果と相関する289).川崎病既往例でも心臓
核医学検査での心筋血流の評価が診断および予後予測に有用である290),291).
④心臓以外の臓器への画像診断法の適用
肺血流シンチグラフィーは術前術後の肺血流左右比評価292),293)に用いられる.肺血流左右比の評価にはフェーズコントラストMRI(PC-MRI; phase
contrast-MRI)も用いられる.2 心室修復術後の肺血流左右比は,RIとMRI はよく相関する294)−296).両方法におけるFontan術後の肺血流比は7%の
ずれを認める294).Fontan術後は,上下肢静脈血が,左右肺動脈に均等に分布しないため肺血流シンチグラフィーは正確な評価が困難である.このた
め,Fontan術後はPC-MRI が臨床的に使用できる唯一の方法である294).肺血流シンチグラフィーと換気シンチグラフィーを組み合わせることで肺塞栓の
診断ができる.
Fontan術後の成人患者では無症候性肺塞栓が17%に認められる297).Fontan術後のタンパク漏出性腸症の診断にアルブミン血液プールシンチグラ
フィーが有用で,感度96%,特異度100%である298).Fontan術後遠隔期の肝障害では,CT所見と組織学的な肝線維化の重症度に相関があり299),
failing Fontanの経過観察に有用である.感染性心内膜炎や縦隔炎の評価にはガリウム炎症シンチグラフィー300),301)やFDG-PETが用いられ,特に
FDG-PETは臨床症状を認めない末梢性の塞栓症や炎症を診断できる302).