心疾患合併妊娠では,妊娠に伴う母体の循環動態の変化が,心機能に影響を及ぼす可能性が高く,母児の罹病率が高くなり,場合により死亡するこ
ともある.したがって,産科医,循環器内科医,麻酔科医,看護師を中心とするチームによる継続的な観察が必要である471).観察ポイントは,不整脈,
心不全,血栓症が主なものである472).
合併症のない妊婦の産科の定期健診スケジュールは,おおよそ妊娠11週末までに3回程度,12から23週末までは4週ごと,24から35週末までは2週
ごと,それ以降40週末までは1週ごとが標準的とされている.これを基本として,循環器内科医は,個々の心疾患の重症度すなわち妊娠のリスクレベル
に準じた経過観察のスケジュールを組み立てる.軽症心疾患は,妊婦健診ごとに循環器外来も受診する必要はない.重度の疾患では妊娠22週頃から2
週おきの観察が望ましい.妊娠30~31週頃からの早期の分娩待機管理入院では,毎週の循環器内科医による診察が必要となる.心不全の悪化に伴
い不整脈の増加が顕著になるが,妊娠27~28週頃から増加する場合や,妊娠35週前後で増加する場合等がある.Holter心電図は不整脈の程度に応
じて,施行することが推奨される.心エコー検査は,第1回目を妊娠前あるいは妊娠判明後すぐに,第2 回目は妊娠26~28週頃に施行し,この時点で早
期の分娩待機入院の時期を計画する.そして,入院後の第3回目検査は,安全で適切な分娩日(帝王切開術の場合も)を予測あるいは決定するための
情報とする.ハイリスク妊娠では,入院安静を続けても心不全症状が出現し,胎児の発育停止となるポイントを妊娠終了・出産の時点とする.このポイント
を予測するために,心エコー法を頻回に行う.脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)値は,中等度以上のリスク疾患における経過観察に役立つが,分娩時
期を決定する具体的な値は明らかではない.
循環器内科医は,妊娠が判明した時点で,心エコー法等による心形態および心機能の評価を行い,産科担当医にその結果と分娩前後も含めた妊娠
経過観察時の注意点について情報提供する必要がある.胸部X線検査は,放射線被ばくによる催奇形性を考慮して,必要と判断される場合に限り,妊
娠16週以降に行われる.特にハイリスク妊娠で帝王切開術を施行する場合には,前日に仰臥位の胸部X線検査を行っておくと,術後との比較がしやす
い.原則として,心不全徴候がみられた場合には,入院安静とし,必要に応じて心不全治療を行う.