1.ありふれた疾患は,一般人口頻度0.1~1%
2.1度近親の経験的再発率が P(P=一般人口頻度)に一致.一般に1~5%
3. 一卵性双生児の一致(両児とも疾患を有する)率は二卵性の5~10倍(先天性心疾患では一卵性46%,二卵性4%)
4.季節,社会階層,催奇形因子等の環境要因により,発生頻度に差が認められる
5.発生頻度に性差あり(心房中隔欠損,動脈管開存は女性に多く,大血管転位,大動脈狭窄は男性に多い)
6.頻度の少ない方の性で,1度近親の再発率が高くなる
7. 1度近親に患者数が増せば増すほど再発率は上昇する(先天性心疾患では,同胞に1人で2~5%,2人で15~30%,3人で
50%以上)
8.発端者の疾患が重症なほど,同胞の再発率が増加する
9. 近縁の度が少なくなるほど急激に再発率が低下する.1度近親で一般人口頻度の数十倍,2度近親で数倍,3度近親では一般人
口頻度にほぼ等しい
先天性心疾患の頻度( %) 主な病型
催奇形因子
 アルコール40 心室中隔欠損,動脈管開存,心房中隔欠損
 アンフェタミン10 心室中隔欠損,動脈管開存,心房中隔欠損,
完全大血管転位
 ヒダントイン2~5 肺動脈狭窄,大動脈狭窄,大動脈縮窄
 トリメタジオン15~30 完全大血管転位,Fallot四徴,左心低形成症候群
 リチウム5 Ebstein病,三尖弁閉鎖,心房中隔欠損
 レチノイン酸15~20 心室中隔欠損,心房中隔欠損,動脈管開存
 性ホルモン2~4 心室中隔欠損,完全大血管転位,Fallot四徴
 サリドマイド5~10 Fallot四徴,心室中隔欠損,心房中隔欠損
感染
 風疹35 末梢性肺動脈狭窄,動脈管開存,心室中隔欠損,心房中隔欠損
母体疾患
 糖尿病3~5(30~50) 円錐動脈幹異常,心室中隔欠損,心肥大房室ブロック
 ループス40
 フェニルケトン尿症25~100 Fallot四徴,心室中隔欠損,心房中隔欠損
症候群遺伝子座遺伝子主な合併心疾患合併頻度
Noonan/RAS/MAPK症候群12q24.1 PTPN11 心房中隔欠損,心室中隔欠損,肺動脈狭窄,
3p25 RAF1 動脈管開存,肥大型心筋症
12p12.1 KRAS
2p22-p21 SOS1
11p15.5 HRAS
7q34 BRAF
15q21 MEK1
19p13.3 MEK2
Alagille症候群20p12 JAG1 Fallot四徴,末梢性肺動脈狭窄, 93%
1p13-p11 NOTCH2 心房中隔欠損,心室中隔欠損,大動脈縮窄
Char 症候群6p12 TFAP2B 動脈管開存100%
Marfan症候群15q21 Fibrillin1 僧帽弁逸脱,僧帽弁閉鎖不全, 70%
大動脈弁輪拡張,大動脈弁閉鎖不全
Loeys-Dietz症候群9q33-q34 TGFBR1 動脈管開存,大動脈弁輪拡張,大動脈解離
3p22 TGFBR2
Holt-Oram症候群12q2 TBX5 心房中隔欠損,心室中隔欠損50%
染色体異常症候群主な合併心疾患合併頻度
 Down症候群 (21トリソミー)
心室中隔欠損,房室中隔欠損,Fallot四徴,心房中隔欠損,動脈管開存40~50%
 Turner症候群(45X) 大動脈縮窄,大動脈弁狭窄,大動脈二尖弁35%
微細欠失症候群
 22q11.2欠失症候群 (del.22q11.2: TBX1, etc.)
Fallot四徴,心室中隔欠損,心室中隔欠損兼肺動脈閉鎖,主要大動脈肺動脈側副血行路,大動脈離断(B型),総動脈幹80%
 Williams 症候群 (7q11.23: elastin, etc.)
大動脈弁上狭窄,大動脈弁狭窄,大動脈二尖弁,僧帽弁逸脱,僧帽弁閉鎖不全,肺動脈狭窄心房中隔欠損,心室中隔欠損,末梢肺動脈狭窄75%
染色体異常8%
単一遺伝子病5%
催奇形因子2%
多因子遺伝85%
小児循環器学会疫学委員会32)(2003年2,654例)
厚生省研究班32)( 1986年773例)
米国Hoffman et al.508)(1978年3,104例)
疾患名頻度(%) 頻度(%) 頻度(%)
心室中隔欠損32.1 56.0 30.3
Fallot四徴11.3 5.3 5.1
心房中隔欠損10.7 5.3 6.7
完全大血管転位4.3 2.2 4.7
肺動脈狭窄3.7 9.6 7.4
動脈管開存2.8 3.6 8.6
房室中隔欠損2.3 1.8 3.2
三尖弁閉鎖2.0 0.4 1.0
大動脈縮窄1.9 2.7 5.7
大動脈狭窄1.5 0.4 5.2
総肺静脈還流異常1.4 1.2 1.1
肺動脈閉鎖1.1 0.8
左心低形成症候群0.1 0.6 1.3
その他各1以下各1以下各1以下
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1 先天性心疾患の頻度・成因
 先天性心疾患は,生命に直結する主要な先天性異常の中で,中枢神経系に次いで2 番目に頻度が高いといわれている.日本における先天性心疾患
の頻度は1,000人の出生に対して10.6人と報告され,欧米は,1,000人の出生に対して4.1~ 10.2人であり,明らかな人種差は認められない32),507),508)
(表40).ただし,先天性心疾患の表現型は多彩であり,成因も単一ではない(表41)

①染色体異常

 染色体異常症では全身性の先天異常症候群を呈し,その部分症として先天性心疾患を合併する(表42).染色体異常症では,一般に先天性心疾患の
頻度が増加し,一般集団で頻度の高い心室中隔欠損,心房中隔欠損等の合併率は上昇する.一方,一般集団中で比較的頻度の低い先天性心疾患の
発生率が,特定の染色体異常で特に増加する場合(例:Down症候群における房室中隔欠損,Turner 症候群における大動脈縮窄等),その先天性心疾
患の発症に異常染色体が大きく関与する可能性が示唆される.通常のGバンド分染法では検出困難で,FISH法により異常を検出することのできる染色
体微細欠失症候群の中にも,高率に先天性心疾患を合併するものがある.

②単一遺伝子病・症候群

 メンデル型の遺伝形式(常染色体優性,常染色体劣性,X連鎖性)に従う疾患群.疾患責任遺伝子が特定されている疾患と特定されていない疾患があ
る.多くは,病因遺伝子の多面効果によって複数の異常形質をもたらす先天異常症候群として発症し,先天性心疾患はその部分症として認められる(表
43).近年の分子遺伝学的研究の成果により,NKX2.5 変異,GATA4 変異等,病因遺伝子により心臓だけが特異的に障害される症例が発見されてき
ているが,単一遺伝子病全体の中で占める割合はまだ少ない.

③催奇形因子(表44)
 胎児の心臓大血管系は妊娠初期(3~ 8 週)に形成される.この時期は,特に催奇形因子による影響を受けやすく(受攻期),心臓の発生異常が最も起
こりやすい時期である.また,母体疾患の中にも児の先天性心疾患に関連するものがある.

④多因子遺伝

 遺伝的素因と環境要因との相互作用により発症すると考えられるもので,大部分の先天性心疾患,特に心臓大血管にだけ先天異常を有する症例のほ
とんどが該当する.複数の同義遺伝子(単一では効果の弱い対立遺伝子)が互いに相加的に働き,さらに環境因子の影響を受け,1 つの形質(表現型)
を発現させるポリジーン系モデルによって説明されるもので,換言すれば単一の原因を特定できないものである(表45)
 
表40 先天性心疾患の疾患(表現型)別頻度
註) 日本小児循環器学会疫学委員会の調査は,小児循環器専門施設を対象にしているため,厚生省研究班の一般新生児を対象とし
      た調査結果と比較すると若干の差が認められる.米国の報告は疫学委員会の報告に比べ,動脈管開存,大動脈縮窄,大動脈弁
      狭窄,左心低形成(いわゆる左心系疾患)が多く,Fallot四徴,心房中隔欠損(6.7%)が少なく,人種差が示唆される.
表41 先天性心疾患の成因509)
表42 成人先天性心疾患に見られる主な染色体異常症候群
表43 成人先天性心疾患に見られる主な単一遺伝子症候群
表44 催奇形因子・環境要因
表45 多因子遺伝の一般的および先天性心疾患の特徴
成人先天性心疾患診療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Management of Congenital Heart Diseases in Adults(JCS 2011)