先天性心疾患は,生命に直結する主要な先天性異常の中で,中枢神経系に次いで2 番目に頻度が高いといわれている.日本における先天性心疾患
の頻度は1,000人の出生に対して10.6人と報告され,欧米は,1,000人の出生に対して4.1~ 10.2人であり,明らかな人種差は認められない32),507),508)
(表40).ただし,先天性心疾患の表現型は多彩であり,成因も単一ではない(表41).
①染色体異常
染色体異常症では全身性の先天異常症候群を呈し,その部分症として先天性心疾患を合併する(表42).染色体異常症では,一般に先天性心疾患の
頻度が増加し,一般集団で頻度の高い心室中隔欠損,心房中隔欠損等の合併率は上昇する.一方,一般集団中で比較的頻度の低い先天性心疾患の
発生率が,特定の染色体異常で特に増加する場合(例:Down症候群における房室中隔欠損,Turner 症候群における大動脈縮窄等),その先天性心疾
患の発症に異常染色体が大きく関与する可能性が示唆される.通常のGバンド分染法では検出困難で,FISH法により異常を検出することのできる染色
体微細欠失症候群の中にも,高率に先天性心疾患を合併するものがある.
②単一遺伝子病・症候群
メンデル型の遺伝形式(常染色体優性,常染色体劣性,X連鎖性)に従う疾患群.疾患責任遺伝子が特定されている疾患と特定されていない疾患があ
る.多くは,病因遺伝子の多面効果によって複数の異常形質をもたらす先天異常症候群として発症し,先天性心疾患はその部分症として認められる(表
43).近年の分子遺伝学的研究の成果により,NKX2.5 変異,GATA4 変異等,病因遺伝子により心臓だけが特異的に障害される症例が発見されてき
ているが,単一遺伝子病全体の中で占める割合はまだ少ない.
③催奇形因子(表44)
胎児の心臓大血管系は妊娠初期(3~ 8 週)に形成される.この時期は,特に催奇形因子による影響を受けやすく(受攻期),心臓の発生異常が最も起
こりやすい時期である.また,母体疾患の中にも児の先天性心疾患に関連するものがある.
④多因子遺伝
遺伝的素因と環境要因との相互作用により発症すると考えられるもので,大部分の先天性心疾患,特に心臓大血管にだけ先天異常を有する症例のほ
とんどが該当する.複数の同義遺伝子(単一では効果の弱い対立遺伝子)が互いに相加的に働き,さらに環境因子の影響を受け,1 つの形質(表現型)
を発現させるポリジーン系モデルによって説明されるもので,換言すれば単一の原因を特定できないものである(表45)