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4 先天性心疾患の遺伝カウンセリングの実際
 先天性心疾患の児を生んだ親にとって,次子の心疾患再発率を知ることは切実な問題である.また,先天性心疾患の診断・治療管理の向上により,
多くの患者が成人に達し,先天性心疾患の親子間の再発率が問題となるケースも増加している.

 適切な遺伝カウンセリングのためには,まず成因診断を正確に行うことが重要である.また,専門的知識・技能を有する専門医またはカウンセラーに
よって行われることが望ましい.詳細については,「心臓血管疾患における遺伝学的検査と遺伝カウンセリングに関するガイドライン511)や日本医学会
「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」512)を参照されたい.

①多因子遺伝の先天性心疾患の再発率

 前述の経験的再発率を基盤としてカウンセリングを行う.家系内の心疾患発生状況を綿密に調査し,発端者が属する家系が一般的な素因の家系か,
家族性の強い家系(家系に複数の先天性心疾患患者がいる)かを確認する.発端者の妊娠初期に,表44のような催奇形因子の関与がなかったかどう
かを,母に罪悪感を抱かせることのないように十分に配慮しながら聴取する.家系内にあった先天性心疾患の自然治癒についても,見落としがないよう
十分に聴取する.特に心室中隔欠損では50%近くも自然閉鎖があり,これらも遺伝的には家族歴ありとみなす必要がある.

② 染色体異常・先天異常症候群を原因とする先天性心疾患の再発率

 Down症候群の児が生まれた両親における次子の再発率は,両親の染色体が正常の場合1%以下である.先天性心疾患を合併する常染色体優性遺
伝形式の症候群の場合,両親のいずれかがその疾患である,すなわち原因となる染色体微細欠失ないし遺伝子異常を保有していれば,児の再発率は
50%である.ただし,いずれの症候群が再発したとしても,先天性心疾患の有無,表現型(病型)は親子間で必ずしも一致しないので注意を要する.一
方,両親のいずれにも遺伝的原因が検出されない場合,発端者に新生突然変異が起こったと考えられ,次子の再発率は一般集団と同等と推定する.

 染色体異常,単一遺伝子病による先天性心疾患は少数であるが,(1)遺伝学的検査による診断,(2)保因者診断,(3)再発率,(4)先天性心疾患と
他の症状(症候群)の自然歴,予後,包括的管理,(5)出生前診断等,遺伝カウンセリングの内容は多岐にわたる.特に,22q11.2欠失症候群513),
514),Noonan症候群等は比較的頻度が高く,先天性心疾患が診断のきっかけになることが多い.染色体異常ないし遺伝子異常の診断が確定しても児
の臨床表現型(自然歴・予後)を確実に予測することができない場合が多いことが問題である.両親に過度の不安を与えることなく,症候群についての
幅広い知識をもって,長期的に包括的な管理を行っていくことが大切である.各疾患・症候群については,「心臓血管疾患における遺伝学的検査と遺伝
カウンセリングに関するガイドライン511)を参照.
 
先天性心疾患の頻度( %) 主な病型
催奇形因子
 アルコール40 心室中隔欠損,動脈管開存,心房中隔欠損
 アンフェタミン10 心室中隔欠損,動脈管開存,心房中隔欠損,
完全大血管転位
 ヒダントイン2~5 肺動脈狭窄,大動脈狭窄,大動脈縮窄
 トリメタジオン15~30 完全大血管転位,Fallot四徴,左心低形成症候群
 リチウム5 Ebstein病,三尖弁閉鎖,心房中隔欠損
 レチノイン酸15~20 心室中隔欠損,心房中隔欠損,動脈管開存
 性ホルモン2~4 心室中隔欠損,完全大血管転位,Fallot四徴
 サリドマイド5~10 Fallot四徴,心室中隔欠損,心房中隔欠損
感染
 風疹35 末梢性肺動脈狭窄,動脈管開存,心室中隔欠損,心房中隔欠損
母体疾患
 糖尿病3~5(30~50) 円錐動脈幹異常,心室中隔欠損,心肥大房室ブロック
 ループス40
 フェニルケトン尿症25~100 Fallot四徴,心室中隔欠損,心房中隔欠損
表44 催奇形因子・環境要因
成人先天性心疾患診療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Management of Congenital Heart Diseases in Adults(JCS 2011)