先天性心疾患は成人期に様々な医療的社会的問題に直面することが多い.再手術,合併症等の医療的側面と就学,就職,結婚,妊娠出産といった社
会的問題の側面がある.そのような長期的ストレスを背景として精神心理的問題を生じることがある.両親の過保護や家族の病気に対する認識不足や病
気を受容できないことにより幼少期より適応不全になることも多い515)−518).幼少期より持続する低酸素状態,手術の際の人工心肺使用の影響等により神
経認知機能障害を来たしていることもある.
精神心理的問題は心疾患の治療や社会適応に影響を及ぼすことが多く,その対処は重要である.不安やうつ等の精神症状,あるいは人格障害も認めら
れることがある.うつと不安の頻度は36~ 50%であり519)−521),一般の頻度に比べて高率である.精神的症状を呈さないものの,潜在的にうつや不安を抱
えている患者も認められる.このことが就労能力や対人関係に影響を与える可能性があり,適切なスクリーニングは重要である.精神心理的症状に影響を
与える因子には,身体機能,性差,年齢,手術の既往,合併症,手術創等のボディイメージ,運動制限がある521)−526).先天性心疾患は幼少時より自分は
人と違うという認識を持ち,成長につれ自分の身体的機能低下,運動制限等により劣等感を持つことが多い.成長の過程でこれらの様々な壁にぶつかった
際に,友人と話をしたり感情を表現したりする場を持っていないことが多い.学童期以降には友人等の対人関係にも障害を来たすこともあり,問題はさらに
大きくなる.遠隔期には術後合併症や再手術等新たな壁にぶつかることがある.その際に症状や手術,さらには死に対する,不安,恐怖等を感じ,これに
対処できないためストレスや精神症状に発展することも多い.
精神心理的問題に介入するには精神科医,臨床心理士への紹介や連携は重要である.可能であれば先天性心疾患に興味がある,あるいは精通してい
る精神科医や臨床心理士が望ましい.介入方法としては薬物療法,精神心理療法がある.薬物療法の際には精神作用薬物と循環器薬との相互作用,循
環器疾患への影響について考慮する必要がある.精神心理療法には個人療法,グループ療法,家族療法がある.また最近では患者や疾患経験者が自ら
カウンセリングをするピアカウンセリングも有用とされている.
未修復術・姑息術後患者は,神経認知学的に問題がある場合がある.総合知能検査の多くは正常範囲であるが,かなりのばらつきがあり,抽象的推論
や空間記憶が障害されているとされる.特に姑息的手術不成功例,2 歳以降の修復術後,乳児期の心不全合併例で中枢神経系合併症,知的発達の遅
れ,学業成績の不良が多く見られた527).これらの認知機能の障害は成人後の神経学的問題のみならず精神心理的問題に大きな影響があると思われる.