【1】単心室型先天性心疾患
単心室型先天性心疾患は,思春期~成人期の心臓移植の適応となる先天性心疾患の代表である.Fontan 型手術以前に心臓移植の
適応となるものと,Fontan型手術以降に心臓移植の適応となるものに分けられる.
(1)Fontan型手術前586)−589)
Fontan手術に耐術できない以下の条件を持った単心室症例で,高肺血管抵抗,肺動脈・肺静脈低形成等の心臓移植の禁忌を伴
っていない場合には適応と考えられる.
1)軽度肺血管抵抗上昇(PVRI<9W.U./m2)
2)低体心室駆出率(SVEF <30%)
3)高度房室弁逆流
4)カテコラミンの持続投与が必要な場合
5)治療抵抗性の致死的不整脈
高肺血管抵抗(PVRI 9 W.U./m2 以上),肺動脈・肺静脈低形成等を伴っている場合には,心臓移植の適応ではなく,心肺移植の
適応と考えられる.
(2)Fontan型手術後
Fontan型手術後,急性期から遠隔期にかけて,薬剤,ablation,外科的治療で治療できない,以下のような条件に当てはまる
場合には適応と考えられる.
1)治療抵抗性の心不全(特にカテコラミン持続点滴を要する場合)
2)高度房室弁逆流
3)コントロールできないPLE588)
4)チアノーゼの著明な肺動静脈瘻589)
5)高度左室流出路狭窄(外科的修復のできないもの)
6)薬剤・ablation・外科治療(TCPC conversion,Maze手術等)に耐性の致死的不整脈
多くの場合,肺血管抵抗は低く心臓移植の良い適応となるが,病期が進みすぎて肝硬変等の合併症を来たした場合は適応とな
らない.
【2】その他の先天性心疾患
症例ごとに検討される内容が変わってくる.
(1)重症Ebstein病
Starnes 手術,三尖弁形成等の外科治療を行っても心不全の改善しない症例,等
(2)冠動脈異常を伴う純型肺動脈閉鎖590)
冠動脈瘻異常があって,肺動脈弁切開等の右室流出路形成等の右室除圧手術が適応とならない症例,等
(3)その他
【3】川崎病
虚血性心筋症に陥り,薬剤治療,冠動脈バイパス術,経皮的冠動脈形成術(PCI)を行っても重症心不全が治癒できない場合,
または治療抵抗性の致死的不整脈を認める場合591)
適応除外条件
下記の条件を満たす場合には心臓移植の適応とならない.
1)高度の肝腎機能障害
2)高度精神神経障害 精神発達遅延が強く家族の協力があっても,薬剤投与が困難な場合を含む
3)全身性感染症
4)高肺血管抵抗(PVRI>9 W.U./m2)
高肺血管抵抗は心臓移植手術に耐術しないため,心肺移植の適応となる.高肺血管抵抗の診断基準は未だ議論のあ
るところであるが,酸素吸入(100%),一酸化窒素吸入(最大40~80ppm)等を行いPVRIが9W.U./m2 以下または
Transpulmonary gradient が15mmHg以下となった場合には,肺血管抵抗は可逆的であると考え,心臓移植の適応とし
ている施設が多い596).
5)高度肺動脈低形成・肺静脈狭窄
高肺血管抵抗とも関係してくるが,肺血管の異常例は心肺移植の適応となる.心臓移植時に修復可能な肺動脈狭窄,
総肺静脈還流異常・部分肺静脈還流異常は心臓移植の適応となる.
なお,これまでの海外の経験から,無脾症,多脾症592)は,移植後の予後に差がないため,適応とされている.
心臓移植の適応を判断する上で慎重を要する条件
以下のような症例では,心臓移植の適応を慎重に判定することが望ましい.
1)高度な側副血行路を認めるもの
2)肺静脈狭窄・肺動脈狭窄を認めるもの
3)複数の手術歴のあるもの
4)高度の肺動静脈瘻・蛋白漏出性腸症を伴うもの
5)医師が不適応と判断したもの
完全大血管転位心房血流転換手術,Bland-White-Garland症候群術後等の術後に,治療抵抗性の重症心不全に陥った
場合,等(適応基準は,拡張型心筋症に準じる)
2 心臓移植の適応
(日本循環器学会心臓移植委員会http://plaza.umin.ac.jp/˜hearttp/)
(日本小児循環器学会臓器移植委員会による小児心臓移植の適応判定ガイダンスについては表50参照)
① 適応は従来の治療法では救命ないし延命の期待が持てない重症心疾患
(1)拡張型心筋症,および拡張相の肥大型心筋症
(2)虚血性心筋疾患
(3) その他(日本循環器学会および日本小児循環器学会の心臓移植適応検討会で承認する心臓疾患)
② 適応条件は不治の末期的状態にあり,以下のいずれかの条件を満たす場合
(1)長期間またはくり返し入院治療を必要とする心不全
(2) β 遮断薬およびACE阻害薬を含む従来の治療法ではNYHA機能分類ⅢないしⅣから改善しない心不全.
(3) いかなる治療法でも無効な致死的重症不整脈を有する症例.
(4)年齢は60歳未満が望ましい
(5) 本人および家族の心臓移植に対する十分な理解と協力が得られる.
③除外条件
(1)絶対的除外条件
● 肝臓,腎臓の不可逆的機能障害
● 活動性感染症(サイトメガロウイルス感染症を含む)
● 肺高血圧症(肺血管抵抗が血管拡張薬を使用しても6Wood単位以上)
● 薬物依存症(アルコール性心筋疾患を含む)
● 悪性腫瘍
● HIV(Human Immunodeficiency Virus)抗体陽性
(2)相対的除外条件
● 腎機能障害,肝機能障害
● 活動性消化性潰瘍
● インスリン依存性糖尿病
● 精神神経症(自分の病気,病態に対する不安を取り除く努力をしても,何ら改善がみられない場合に除外条件となることがある)
● 肺梗塞症の既往,肺血管閉塞病変
● 膠原病等の全身性疾患
④適応の決定
各施設内検討会および日本循環器学会心臓移植委員会適応検討小委員会の2 段階審査を経て公式に適応を決定する.適応決定後,本人および家族のインフォームドコンセントを経て,移植患者待機リストにのった者を対象とする.
表50 小児心臓移植の適応判定ガイダンス(日本小児循環器学会 臓器移植委員会)
(http://plaza.umin.ac.jp/˜hearttp/)
日本小児循環器学会移植委員会として,成人先天性心疾患および成人期川崎病既往例の心臓移植適応を判定するためのガイダンス587)−593).
成人先天性心疾患診療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Management of Congenital Heart Diseases in Adults(JCS 2011)