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①症状

 新生児期に発症する重症例の予後は不良で大多数は成人期に達しない.それ以降の小児期発症例では進行性の右心不全症状を呈するが,その多くは成人期まで加療を行うことなく到達する.成人期には不整脈,心不全で発症することが多い.臨床症状は,三尖弁偏位の程度,右心系の大きさ,肺動脈弁狭窄の存在と程度,右房圧,三尖弁閉鎖不全の程度,右−左短絡の有無に左右される.無症状で経過する成人例も認められる.

 成人期に認められる臨床症状は,動悸,運動時息切れ,呼吸困難,易疲労感,チアノーゼ,奇異性血栓,脳血栓塞栓症等である.心房中隔欠損(卵円孔開存)合併例では運動時にチアノーゼを認めることがある.末期には高度三尖弁閉鎖不全,右心機能低下を呈し,心房細動等の不整脈により症状増悪を来たす.副伝導路を持つ心房細動例や心室性不整脈例では突然死を来たす場合もある768)−772)

②身体所見

 高度の三尖弁閉鎖不全にもかかわらず拡大した右房のリザーバー効果により相殺されるため頸静脈波は正常のことが多い.チアノーゼを認める場合がある.

 聴診所見は,全体に心音が弱く,Ⅰ音の分裂とⅠ音第2成分が大きく強く聞こえる(sail sound).右脚ブロックのためⅡ音も広く分裂することがある.Ⅲ,Ⅳ音を聴取し,吸気時に増強する.三尖弁閉鎖不全による汎収縮期雑音を聴取する.
2 臨床所見
 
成人先天性心疾患診療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Management of Congenital Heart Diseases in Adults(JCS 2011)