①非チアノーゼ性心疾患
1)心房中隔欠損
長期的な左−右短絡のため左室の発育不全や右心系容量負荷の増大が次第に進行する.40歳以降では心房細動の合併率が増加するため568),発作
性心房細動に対しても欠損孔閉鎖時にメイズ手術を追加することが推奨される568),569).また右心系容量負荷により三尖弁閉鎖不全を合併することもあり
中等度以上の逆流では同時修復が望ましい.このような合併症が認められる症例では手術治療を行うか,カテーテル閉鎖術を行うかの十分な検討が必要
である6).
2)心室中隔欠損
左−右短絡の多い心室中隔欠損を成人期まで持ち越すことはまれであるが軽度−中等度の肺高血圧を伴いながら日常生活を営んでいるケースもある.
肺高血圧を伴う場合は,酸素,NOあるいは肺血管拡張薬による肺血管の反応性の術前検査を行い,必要があれば肺生検を行って手術適応を決定する
160),161).またアジア人に多い肺動脈弁下欠損では大動脈弁が逸脱して欠損孔を塞ぎ,症状に乏しく診断が困難なことがある.しかし大動脈弁閉鎖不全を
合併したり中年期以降に逸脱した弁尖が破裂してバルサバ洞動脈瘤破裂を来たすこともあるので570),571)定期的な心エコー法での観察,手術時期決定が
必要である.
3)Ebstein 病
成人例では三尖弁前尖が帆のように大きいことが多くSingle-stitch法572),Carpentier法573)のような弁輪縫縮および一弁化形成術が有効である.しかし
弁葉が形成不良である場合,弁置換も選択される572),574).頻拍性不整脈に対してはカテーテルアブレーションや術中右側メイズ術が有効とされている
575),576). 最近は,Cone reconstructionが行われることもある577).
4)動脈管開存
高齢者の動脈管開存ではしばしば近傍の大動脈が石灰化を起こし,単純な結紮や切断は大動脈の亀裂を起こす危険性がある.このような症例では体外
循環下に動脈管を切離し大動脈の形成を行う方法や主肺動脈経由のパッチ閉鎖等の方法が報告されている578),579).
5)修正大血管転位
心室中隔欠損や肺動脈弁狭窄等の心内合併異常を伴わない修正大血管転位もしばしば成人期に遭遇する.手術適応は主として経年的な体循環房室
弁である三尖弁閉鎖不全の進行と形態的右室の収縮能低下によるものである.中等度以上の三尖弁閉鎖不全を認める場合,早期の手術介入がすすめら
れるが56)Ebstein様の三尖弁形態を呈する症例も認められ,弁形成術が有効ではないことが多い8).体心室機能が低下していることを考慮すると確実な修
復が重要であり,成人期の治療では弁置換が推奨される11),56),580).手術にあたっては形態的右室が収縮率40~ 45%以上を保っている時期が望ましい
6).また加齢とともに刺激伝導系障害も出現することが知られており,高度徐脈や房室ブロックを認める場合ペースメーカ移植の適応である.
②未修復術,姑息的手術後のチアノーゼ性心疾患
成人期に見られるチアノーゼ性心疾患の多くは心室中隔欠損を伴い適度な肺動脈弁狭窄により肺血流がバランスよく調節されている.Fallot四徴や大血
管転位,修正大血管転位,単心室が挙げられる.慢性的な低酸素血症にさらされ,出血傾向や腎機能障害等の多臓器合併症を伴う.全身的合併症を術
前に診断しておくことが望ましい.
二心室を備えている疾患でも形態的右室は体循環心室として機能しているため厚い肉柱が形成され,容積減少や拡張能低下を認める症例や多発性の
心室中隔欠損や腱索の一側房室弁両室挿入(straddling)を伴っている場合がある.二心室修復をめざす完全大血管転位や修正大血管転位でも解剖学的
形態異常のため二心室修復が困難な場合がある.どちらかの心室容積が70%以下の場合は体- 肺短絡手術を介するか,Fontan 型手術も考慮する580).
Blalock-Taussig短絡術をはじめとする種々の体−肺短絡術や両方向性Glenn手術,TCPS術(Total cavo-pulmonary shunt; Kawashima手術)等右心
系短絡術に留まったまま経過観察となっている症例も見られる581).体循環,肺循環への側副血管の形成が認められることが多く肺循環への側副血管に
対してはコイル塞栓術等を先行させる.修復術を行う場合は,未治療症例と同じく心室収縮能,心室容積,肺血管抵抗,房室弁機能等の条件が適当であ
るかが重要であり,姑息的手術の追加を行うか,Fontan型手術か二心室修復が可能か等の治療選択の決定要因となる.