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1 解剖学的特徴と病態生理
 心室中隔欠損は,欠損孔の部位により膜様部,漏斗部,筋性部欠損等に分けられる.膜様部欠損(右室内辺縁肉柱後脚が三尖弁輪と円錐部の間に挿
入する部分で,左室側から見ると大動脈弁無冠尖と右冠尖に囲まれた部分)が最も多い(50%).日本人を含めた東洋人には円錐部中隔(肺動脈弁下)
欠損が多いことが特徴である(30%).流出路円錐部中隔と流入部・心尖部中隔にズレが生じて発生した,いわゆる非整列(malalignment)による欠損孔
は,円錐中隔が前方へ偏位すると右室流出路狭窄や大動脈弁閉鎖不全,後方への偏位は左室流出路狭窄,大動脈弁狭窄(二尖弁を含む),大動脈縮
窄等一連の狭窄性疾患を生じる.また,筋性部欠損は,心エコー法の普及により新生児期には,以前より多くみられることがわかってきたが,その多くは
乳児期までに自然閉鎖する664).

 短絡量を決定するのは欠損孔サイズと肺血管抵抗で,欠損孔が大動脈弁輪径と同等(大欠損)あるいは大動脈弁輪径の1/2程度(中欠損)では,体重
増加不良,呼吸器症状,肺高血圧のため乳幼児期に手術が行われる.何らかの理由で手術が遅れ,2歳を過ぎると肺動脈は不可逆的変化に至ることが
多い(Eisenmenger症候群).大動脈弁輪径の1/3以下の小欠損は,右室・肺動脈圧の上昇がなく,肺体血流比< 1.5(短絡量33%)で,通常無症状に経
過し,自然閉鎖も期待されるので定期的に観察を続けるのが一般的である.

①大動脈弁逸脱と大動脈弁閉鎖不全665)−668)

 円錐部中隔欠損は高率に大動脈弁逸脱を合併する.収縮期に大動脈弁の一部(多くは右冠尖)が,欠損孔にはまりこみ(大動脈弁逸脱),変形し,変形
が進むと大動脈弁閉鎖不全を生じる.円錐部欠損は我が国成人期未手術心室中隔欠損の60%に達するが,大動脈弁逸脱で部分的に欠損孔が縮小して
一見無症状の場合があり,大動脈逸脱の程度と欠損孔の大きさを的確に診断することが重要である.大動脈弁逸脱は膜様部欠損にも合併し,多くは
malalignment型欠損に伴う.膜様部欠損に合併する大動脈弁逸脱は,無冠尖と右冠尖の二尖が逸脱している場合や大動脈弁輪そのものの拡大を伴
い,大動脈弁逆流が重症となることがある.若年発症の大動脈弁閉鎖不全では,心室中隔欠損に合併した大動脈逸脱を鑑別することが必要である.さら
に,円錐部中隔欠損はバルサルバ洞動脈瘤,破裂を合併することがあり,注意が必要である669).

②右室流出路狭窄

 心室中隔欠損に右室流出路狭窄を伴うことがあるが,この要因には,大きな膜様中隔瘤,右室流出路へ大きく突出した大動脈弁逸脱,右室内異常筋束
の発達,が挙げられる.右室内異常筋束の発達は右室内部が高圧系の流入部と低圧系の流出部に二分され右室二腔症(DCRV; double-chambered
right ventricle)となる.逆に,右室二腔症もまたmalalignmentを伴う心室中隔欠損を伴うことが多い.


③Gerbode欠損(膜様中隔瘤に伴う左室右房短絡)

 心室中隔欠損が自然閉鎖してゆく過程の中で,三尖弁の一部が膜様中隔瘤となり,その中隔瘤の血流が吹き出す方向により左室右房短絡となること
がある(Gerbode欠損).感染性心内膜炎や右房拡大を生じて洞結節機能不全の要因となることもある.
 
成人先天性心疾患診療ガイドライン(2011年改訂版)
Guidelines for Management of Congenital Heart Diseases in Adults(JCS 2011)