①発生頻度と発生機序
術後右室流出路狭窄は3~ 30%と比較的高頻度に認められる術後続発症である4),942),962)−980),999),1003)−1006).狭窄部位は,肺動脈弁および弁
下,吻合部(弁上部),左右肺動脈幹,左右末梢肺動脈に単独あるいは複合して発生する.狭窄の発生原因は,Lecompte法における大動脈の後方
からの圧迫と左右肺動脈の過伸展,肺動脈再建に用いるパッチの肥厚・退縮,肺動脈弁輪部および吻合部の成長障害,小口径の旧大動脈弁等が考
えられる.動脈位血流転換術における肺動脈狭窄発生はある程度不可避な合併症であり,その発生頻度は経年的に増加し,狭窄の程度も進行す
る.
②診断
動脈位血流転換術後の右室流出路狭窄は,完全大血管転位に対するRastelli手術後の管理基準に準じ1007),十分な専門知識を持つ循環器内科医
による定期的な外来診療がすすめられる.基本的には臨床症状と心エコー法で経過観察を行う.通常は,右室の代償機転により長期にわたって無症
状に経過し右心機能も正常に維持されることが多い.一側肺動脈狭窄例では有意の右室圧上昇が見られないことがある.軽症では運動耐容能や心
機能は正常であるが,重症例では比較的早期に有意の心拡大や右室機能低下,心室性期外収縮が出現することがある.動悸,労作時呼吸困難,肝
腫大等の右室流出路狭窄による症状出現に留意しつつ,心エコー法による右室機能,運動負荷試験,肺血流シンチグラフィーによる左右肺動脈血流
分布の評価が必要である.
③リスク分類(表80)
右室流出路狭窄に伴う自覚症状がある患者は高度リスクとする.
圧較差< 50mmHg,右室拡大(−)でも安静時や運動誘発性期外収縮を認めるものは中等度リスクである.
④運動・作業許容条件(表81)
リスク分類,運動・作業許容条件は,循環器疾患の診断と治療に関するガイドライン(2001− 2002年度研究班報告)の「心疾患患者の格好,職域,
スポーツにおける運動許容条件に関するガイドライン」を参照282).
⑤管理と再手術適応
軽度の右室流出路狭窄(圧較差< 50mmHg)で右室拡大がない無症状例は軽度リスクであり,12か月ごとの定期検査を行う. 中等度の圧較差(
圧較差≧50mmHg)で右室拡大を認める例は中等度リスクであり,6~12か月ごとの右室機能評価が必要である.右室拡大,三尖弁逆流の進行がな
ければ中等度の運動まで許容する.右心不全症状あり,圧較差≧ 50mmHgあるいは右室圧/左室圧≧0.7の圧較差は手術適応である.圧較差<
50mmHg,右室圧/左室圧< 0.7でも一側肺動脈狭窄による左右肺動脈血流分布不均衡が存在するもの,挙児希望あるいは高度運動希望がある場
合,高度肺動脈弁逆流を伴うものでは手術がすすめられる4).高度の圧較差例における管理計画を図4に示す.
⑥術式選択と予後
最近の多施設共同研究によると,新生児動脈位血流転換術後遠隔期の右心系狭窄に対する再手術およびカテーテル治療施行率は12%で,累積
回避率は術後1年で94%,10年で83%と報告されている1006).外科的解除法は,パッチによる肺動脈拡大が行われ,狭小弁輪例に対しては弁輪拡
大が適用され,肺動脈狭窄再発率は低い965),999),1003).一方,経皮的アプローチのバルーン拡大術の成功率は外科治療より低いが,非侵襲的で繰
り返し行える利点があり,狭窄病変部は身体発育に応じて成長することが示されている9),1008)−1010).